S邸リノベーション。16「耐震診断とダクトの汚れ。」
ゆうです。
S邸のインスペクションを行った後日、リノベーション工事をして頂く齋藤建築さんと一緒に『耐震診断』を行ってきたのでその一部を紹介します。
前回、「インスペクション」と「耐震診断」の大まかな違いを書きました。
「インスペクション」は、
工事なしで中古住宅に住むことを想定した場合の最低限の調査。
「耐震断熱診断」は、
中古住宅を買ってリノベーション工事をした上で住むことを想定した場合の詳細調査。
ということでした。
今回S様のご要望は、
工事なしのままで良いという事ではなく、
『性能は新築と同等以上で、支出は抑えた住まいが欲しい。』
ということでした。
その選択肢として、S様は
『中古住宅+断熱耐震リノベーション』
を選ばれたのでした。
「中古住宅+リノベーション」はまだまだメジャーな選択肢ではありません。
S様は元住宅メーカー会社勤務で現在は不動産業に携わっているため『中古住宅+リノベーション』という選択肢を選べたんだと思います。
良い意味で『新築住宅慣れ』していて『あら熱』が取れていたのでしょう。
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ということで、S邸はリノベーション工事は必須条件でした。
来春から、断熱・耐震リノベーションを行っていく予定です。
では、どのような断熱・耐震リノベーションを行えば良いのか。
現在の建物の状況を調べ、足りないものを補っていく必要があります。
まずは床の高さのズレの再確認。 床下に潜り高さがズレていた原因を突き止めた。
→S邸リノベーション。12「インスペクション実行『室内③床下』。」
コンセントボックスをドライバーではずし壁内を確認する。
この当たりは通常の中古インスペクションでは行われない。
リノベーションを前提とした『大工さんによる工事のための診断』になる。
壁の下地である石膏ボードの厚みが一般的な厚さと同等であることが確認できた。(厚12.5mm)
電気工事の施工レベルも問題ないこともわかった。
ここからどの程度の電気工事(補修)が必要になりそうかを推測する。
中古リノベーション工事は、実際に壁を壊したりしてみないとどの程度の直しが必要になるのかがわからないことが多い。
そうすると「予定の工事金額では足りない!」ということもありえてくる。
その度に建て主さんに追加で金額を請求することは両者とも苦しい。
そういったことができるだけ少なくなるよう、大工さんはカンと経験を生かし、ポイントを調査することで全体を想像し、リノベーションの計画・見積もりに反映していく。
こういうことは、新築住宅だけをしている大工さんにはできない。
(カンと経験がないから)
そして本日の調査のメイン。
『2階の床の下地の調査』です。
調べてみると、下地に合板が使われておらず、そのまま床材が張られていた。
(床材は「突き板フローリング」だった。)
この仕様だと、地震に対しての強度が十分でない。
(厳密にダメ・地震に耐えられないということではなく、あくまでS様が求める耐震レベルには足りていないという意味。)
床の強度について簡単に説明すると、
家を「紙の箱」と考えたとき、
2階の床は箱のフタにあたります。
フタがコピー用紙のように薄ければ、地震など横向きの力がかかったときに、簡単に箱がひしゃげてしまいますよね。
そうならないように、フタ(床)には強度が必要なんです。
(構造計算をしていない家はそもそもこういう検討をしていません!
これは現在の新築住宅でも本当によくあること。
リノベーションに限らず、新築する場合も必ず「構造計算(許容応力度計算)」はしてもらいましょう!)
屋根も同様にフタの役割を果たす。
屋根の下地も必要な強度に足りておらず、フタに強度を持たせるための耐震補強工事を必要とすることがわかった。
このようにリノベーションには、
こういった『現地調査』と、
調査に基づいた『改修設計』と、
実際の『工事』を精度を持って行うことが必要になってきます。
リノベーションは設計施工ともに高いレベルが求められるんです。
今までは
大工さんのカンや経験だけで、なんとなくリフォーム工事が済まされていたケースがほとんどです。
それだけでなく『計算に基づいた改修設計』が必要なんです。
そもそも耐震・断熱改修は全くせずに、
壁紙の貼り替えや、キッチンなどの設備の入れ替えだけするリフォームが往々です。(現在も)
※これは住み手の要望にもよるのでなんとも言えない部分もあります。
「リフォームしたいけど予算はない!」となると、どうしても見える部分やキッチンなどが優先されがち。
でもそれだと、住んでから寒くて居心地が悪かったり、地震の際に危険に晒されたりしてしまいます!
この当たりは中古住宅の流通の促進とともに情報が増え、断熱耐震リノベーションの重要性は一般的になっていけば良いと思っています。
1階の天井と2階の床の間の「ふところ」と言われる空間。
ホコリが梁にこびりつき汚れているのが分かる。
現在僕が勤める設計事務所では勧めていないが、
壁やふところの内部を冷暖房の空調経路に使用する空調方式がある。
(床下の暖気を壁を通して2階の部屋に運ぶとか)
そういった『見えないところ』を空調の経路とする場合は、経年変化で内部が汚れるリスクを考慮する必要がある。
よごれづらいように工夫するか、汚れても掃除できるようにするか。
こういった『建物の経年変化』を知らないと危険な設計をしてしまうことになる。
特に、住む人が吸う「空気」は、耐震性能と同等かそれ以上に慎重に考えなければならない。
この汚れを経由した空気は吸いたくないですよね。
汚れの様子を見て『経年変化を考慮した設計』の重要性を再確認した。
中古住宅を調査することは、新築住宅を提案する際にもとても大切なものを教えてくれる。
この機会を与えてくださったS様に感謝です。
ふところを覗くために取り外した換気扇。
排気ダクト内は黒いススでこんなにも汚れていた。
恐らくタバコのヤニ等の油とホコリが固まったものだろう。
・排気(外に捨てる)用の換気扇なので室内にはあまり影響がないこと。
・人体にどれほど影響があるかわからないこと。
等より実際には大きな問題はないと思われるが、
『経年変化でこれだけ汚れが発生する。』ということを知っていることが、
安全な住宅設計をするための必要条件のひとつだろうと思っている。