【構造】『雪の単位荷重の計測。』実情と計算値の差。雨による重量化リスク。
ゆうです^ ^
ここ数日の大雪は「パウダースノーが一気に積もった」のが大きな特徴でした。
雪がやんでからは雨。
雨を含んだ雪の重さはどの程度なのでしょうか。
測定してみて、積雪荷重を適切に勘案した構造計算の重要性を改めて感じました。
新潟では2021年1月9日から11日まで例年にない大雪が降りました。
停滞した寒気によりパウダースノーが止めどなく降り積もる。
前年冬の降雪はゼロ。
想像を超える事象が毎年起こっている。
建築設計には「今後の気象変動の推測」が求められると感じています。
積雪は平年比を大きく超えた。
【気象】2021年豪雪の状況紹介。「ピンチの中には気付きが隠れている。」 - 住宅設計エスネルデザイン
降雪で注目すべきは「量」と「スピード」。
今回は「量」が「早く」積もった。
そうなると一番厳しいのは「交通障害」。
・降雪時に道がふさがり車が走れない、電車が止まる。
・除雪車が間に合わず、通勤通学が困難になる。
(柏崎市は1/12-13、市内全ての小中学校を臨時休校)
・降雪後の雨で圧雪路面に穴が開きスタックする車により交通マヒを引き起こす。
(2021.1.13新潟全域)
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では「建物」への影響はどうだろうか?
・新雪は低密度のため、見た目ほどの重さは掛かっていない。
(一時的に設計積雪量を超えたとしても大きな問題にはならないと思われる)
・気温上昇→氷点下が繰り返されると雪が氷に変わっていく(→比重UP)。
・軒先からの落雪に注意。
(雪止めアングルの位置や量が重要)
・エアコン室外機が雪で埋まると暖房パフォーマンスが下がる。
(ショートサーキット、循環不良、熱交換機の凍結)
地蔵のエスネル(長岡市。2021.1.12撮影)。
耐震等級3(設計積雪量2.0m)
【秘訣】2018年の積雪から構造を考える。「設計積雪量」② - 住宅設計エスネルデザイン
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そして「積雪+降雨」になると危さが増す。
雨の浸み込んだ雪は想定以上に重くなる。
通常、雨が降ればその分雪が解けるため全体の重さは減るが「短期間の大雪+雨による吸水」は注意が必要。
特に、工場や体育館などの大スパン(柱と柱の距離が長い)の場合は要注意。
(=梁が負担する範囲が大きい)
カーポートも「大雪+雨」で屋根の負担が急激に増す。
(僕の実家(柏崎市))
「ここまで積もったのは初めてだ。」
「初めて雪下ろしをしたよ。」
と父。
友人から。(柏崎市)
1.5m程の積雪だったそう、
カーポートも垂直積雪量以上の耐雪性があるものを選びたい。
出典:克雪住宅ガイドブック(新潟県)。
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では「雨により吸水した雪」はどれ程の重さになるのか。
我が家の雪を計測してみました^ ^
【前提の確認】................
建築基準法上の多雪区域の雪の重さは、積雪1cm当たり30N/㎡≒3kg/㎡。
(多雪区域:垂直積雪量が1m以上の区域)
※一般区域は積雪1cm当たり20N/㎡≒2kg/㎡。
(1m以上積もると雪が圧密されるため、多雪区域の雪の重さは大きくなる)
出典:克雪住宅ガイドブック(新潟県)。
積雪1mの雪の重さは屋根1㎡あたり
3kg/㎡/cm×100cm=300kg/㎡
→屋根1㎡あたり体重60kgの大人が5人乗っている状態。
家の屋根面積が60㎡であれば、家にかかる重さは
3kg/㎡/cm×60㎡×100cm=18トン
→屋根に体重60kgの大人が300人!
=6000kgのアフリカゾウが3頭!
雪の重さを図解しました. 新雪は積雪1cmで降水量約1mmですが,実際は上に積もる雪の圧密で降水量約3mm相当です.大雪時に2m積... | 荒木健太郎さんのツイート
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多雪区域で構造計算を行っている設計者であれば、一度は思ったことがあると思います。
「雪の重さがキツイ、、」
雪が重いと耐力壁の必要量が増える→窓が減る→プランが難しくなる。
(特に耐震等級3を得るには)
「雪の重さって本当に3kg/㎡/cmって合っているの?」
(「もう少し軽いと助かるんだけど、、」)
ということで、計測してみました♪
・タッパー容積=1.2L(1200㎤)
・重さ=60g
【表面の雪(+降雨後)】................
パウダースノーだった雪は雨によりザラメ状になっている。
雪質の補足動画。
タッパーに納める。
※多少空隙あり。力で押し込むことあり。
※「乱さない供試体」ではないのであくまで参考レベル。
・雪の重さ=610g(秤数値)-60g(タッパー)=550g
・密度=550g/1200㎤
→積雪1cm当たりの重さ4.58kg/㎡
・1㎥当たりの雪の重さ=458kg
>建築基準法上の1㎥当たりの雪の重さ300kg
表面の雪(+雨)の重さ
=建築基準法上の雪の重さの約1.5倍。
(458/300≒1.5)
【中腹の雪(+降雨後)】................
(積雪1.5m程のGL+0.7m程)
表面(ザラメ)に比べると粘性が高い。
雪質の補足動画。
・雪の重さ=590g(秤数値)-60g(タッパー)=530g
・密度=530g/1200㎤
→積雪1cm当たりの重さ4.41kg/㎡
・1㎥当たりの雪の重さ=441kg
>建築基準法上の1㎥当たりの雪の重さ300kg
中腹の雪(+雨)の重さ
=建築基準法上の雪の重さの約1.5倍。
【底部の雪(+降雨後)】................
(積雪1.5m程のGL+0.2m程)
雪質はザラメ。
雪質の補足動画。
・雪の重さ=640g(秤数値)-60g(タッパー)=580g
・密度=580g/1200㎤
→積雪1cm当たりの重さ4.83kg/㎡
・1㎥当たりの雪の重さ=483kg
>建築基準法上の1㎥当たりの雪の重さ300kg
底部の雪(+雨)の重さ
=建築基準法上の雪の重さの約1.6倍。
【表面の雪(+特に降雨が多かった部分)】................
水気を帯びたザラメ状。
雪質の補足動画。
・雪の重さ=750g(秤数値)-60g(タッパー)=690g
・密度=690g/1200㎤
→積雪1cm当たりの重さ5.75kg/㎡
・1㎥当たりの雪の重さ=575kg
>建築基準法上の1㎥当たりの雪の重さ300kg
表面の雪(+特に降雨が多かった部分)の重さ
=建築基準法上の雪の重さの約1.9倍。
【まとめ】................
・建築基準法上の雪の重さは少なすぎることはないことが分かった。
【補足1】................
「実際の雪の重さが建築基準法上の雪の重さ(=構造計算に入力する重さ)の1.5倍~1.9倍ということだけど大丈夫?」
という疑問があるかと思います。
回答としては(一概には言えませんが)
・雪の重さのピークと積雪量のピークにはズレがある。
(雨が降れば重くなるがその分雪の量は減る)
・現実には雪の重みで倒壊する住宅は少ない。
(老朽化した空き家などのみ)
などを考慮すると
現実的には建築基準法上の雪の重さ=3kg/㎡/cmで大きく問題はないと考えられる。
出典:雪フォーラム 質疑回答項目。
(日本建築構造技術者協会)
【補足2】................
構造計算では「地震力を検討する際、積雪の重さ(=量)は0.35倍にして計算」することとなっている。
(建築基準法上)
「冬期の積雪の平均値≒設計積雪量×0.35倍」ということのよう。
(年間で見れば雪が乗っていないことのほうが圧倒的に多いため「0.35は大き過ぎる」という声も?)
建築基準法で定められた数値は「倒壊防止」を前提としている。
「損傷はしても倒壊はさせない」という言わば最低ライン。
(「倒壊防止」の上位レベルが「損傷防止」)
確かに
・積雪を過剰に見込むと設計の拘束度が高まってしまう。
(→壁が増える。窓が取りにくい)
・現時点で積雪時の地震による被害実例が少ない。
・構造計算に入力する強度は安全を見て小さめに割り引かれている。
(入力する強度(短期)は基準強度の2/3)
等を考慮すると0.35は適当なのかもしれない。
とは言え「最大積雪時に大地震が起き実際に被害が出た」なら建築基準法は変わるだろうと想像できる。
(確率的にはかなり低いのだろうが)
※そもそも構造計算ではない「壁量計算」では積雪荷重は無視されている、、、
・極低確率をケアするために壁ばかりになる家で良いのか。
(開放的なプランから得られる満足度とのバランス)
・限りある予算を効果的に分散したい。
(構造、意匠、断熱、設備、、)
など設計的なジレンマもある。
ただ明確に言えるのは「構造計算をして耐震等級3を得る」ことは非常に重要ということ。
(耐震等級3はマストと言っても良い)
何事も低確率であっても想像を超える事態は起こりうる。
その時に「余地(余力)」があることが助けになる。
【秘訣】構造計算された家を。「耐震等級3」を勧める理由。 - 住宅設計エスネルデザイン
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今回の大雪を経験し考えさせられることは多々あった。
経過観察も大切。
日々、アンテナを研ぎ澄まして設計に望みたい。
-「超高断熱の小さな木の家」escnel design-