【構造】法改正により家に必要な壁量が増える『未来を見越した性能設計を』-許容応力度計算のススメ-

【構造・耐震性】の秘訣

こんにちは^ ^

2025年に住宅の壁量計算に必要な壁量が増える法改正が行われます。
(2023年秋に公布、2025年春に施行予定)

『なぜ必要壁量が増えるのか。』

『増えることはなにを意味するのか。』

『今の基準の量では足りないのか。』

壁量計算許容応力度計算の違い。

構造計算の大切さを再確認したいと思います。

 

 

 

〈予備知識〉
・家は地震に壁で耐える(耐力壁)
・必要な耐力壁の量=壁量が法律で定められている

................

 

住宅の構造計算には大きく2種類の方法があります。

『壁量計算』『許容応力度計算』

〈特徴〉................

【壁量計算】
・簡易な計算(ソフトがなくても電卓で可能)
・法律で決められたルール内かどうかの判定

【許容応力度計算】
・詳細な計算(構造ソフトを用いて計算)
・材の強さが足りているかひとつひとつ確認する

【難易度(設計者の習熟度)】
許容応力度計算 > 壁量計算

【プランの自由度】
許容応力度計算 > 壁量計算

【安全性】
許容応力度計算 > 壁量計算

 

ざっくり言うと

「難しいことが出来ない場合、法律で決めたルール内でやってくれれば面倒な計算はしなくて良いよ。」
(許容応力度計算ができないなら壁量計算で良いよ)

ということ。

 

結論から言うと

「これから家を建てるなら許容応力度計算はマスト。」

これから家を建てられる方は依頼先が許容応力度計算を行っているか確認すると良いです。

(現時点では許容応力度計算がされていない住宅のほうが圧倒的に多い)

 

壁量計算も以前の時代には意義はあったと思います。

・高額なソフト、高性能のパソコンの入手が困難
・計算方法など分かりやすい情報を得にくい

ただしそれは昔の話。

今はソフトもパソコンも安価になり情報もほぼ無料で得られます。

これからは許容応力度計算はマストな時代です。

 

 

【秘訣】構造計算された家を。「耐震等級3」を勧める理由。 - 住宅設計エスネルデザイン

 

 

壁量計算は簡易なルール+昔のルールのため「確認が足りない点」や「現在の建築に即していない点」があります。

・梁や柱の強度の確認は行われない。

・積雪による重さは考慮されていない。
(雪の重さ分必要になる壁量を見込んでいない)

・複雑な形状のプランを想定していない。
(凹凸のあるプランは想定されていない)

・太陽光パネルやトリプルサッシなどの重さを考慮していない。

・床(水平構面)の強度の確認は行われない。
(吹抜けによる強度低下の確認は行われない)

・基礎の強度の確認は行われない。

・必要壁量の基準は甘め。
(同じ耐震等級1でも許容応力度計算のほうが壁量計算の約1.4倍程必要になる)

など。

 

許容応力度計算では上記の点について確認を行います。

 


許容応力度計算で確認する項目。(構造計算ソフトホームズ君資料より)

 

................

 

さてここからが今回の本題。

昨今、太陽光パネルやトリプルサッシなどの家が普及してきています。

国もそれを推奨しています。

そこで国も

「さすがに太陽光パネルやトリプルサッシの重さを考慮していない計算はマズいよね。」

となり、必要な壁量が改正されることとなりました。

 


国交省資料より(改正案)。

 

必要な壁量は

1階:約1.8倍に、2階:約2倍に増えるようです。

 

、、、

 

どう思われますでしょうか(^ ^;)

 

この意味を裏返せば、現在の住宅(太陽光パネル、トリプルサッシあり、壁量計算)は

必要壁量に対して1階は1/1.8、2階は1/2しか耐力壁が足りていない。

ということでしょうか。
(耐力壁量=必要壁量の設計の場合)

 

これはその通りだと思います。

結論としては

現在の壁量計算では現在の住宅に対して検討が足りていない。

ということ。

 

※許容応力度計算の必要壁量の改定は無い。
(太陽光パネルやサッシの重さを見込んで計算を行うため)

 

 

 

そしてさらに言うと

現在の壁量計算は雪の重さを考慮していません。

建物は重くなれば地震時の揺れも大きくなります。

「=重くなれば必要な壁量は増える」ということ。

雪は1㎥あたり300kgで計算します。

仮に屋根50㎡×積雪1mなら雪の重さは約15トン。

これは構造計算をする際に無視できない重さです。

(コンパクトカーの車重が約1トン。15トン=コンパクトカー×15台分)

 

この雪の重さについても改正案が検討されています。

 


国交省資料より(枠組み壁工法の改正案)。
住宅に多く用いられる「軸組工法」の基準ではないが必要な壁量は同様と思われる。

 

積雪1mの場合、必要な壁量は

1階は約2.3倍に、2階は約3倍に増えるようです。

 

現在の住宅(積雪1m地域、太陽光パネル、トリプルサッシあり、壁量計算)は

必要壁量に対して1階は1/2.3、2階は1/3しか耐力壁が足りていない。

ということでしょうか。

 

より言及すると

「現在の壁量計算の基準で建てられた家は2025年以降には昔の耐震基準の家として判断される」ということでしょうか。

それは家の価値を低下させることになるのでしょうか。

(耐震基準はすでに「旧基準(~1981)」と「新基準(それ以降)」の大別があり、旧基準のものは多くの耐震補強が必要なため中古市場での価値は低い)
(今後は「新基準(1981~2024)」「新新基準(2025~)」と区別されるようになるのか)

 

、、、

 

このあたりにしておこうと思います。

 

重要なポイントは

・上記の点は以前から明らかだったということ。
(「壁量計算では甘い。特に積雪地域は」という点)
(昨日今日分かった新事実ではないということ)

・その点を踏まえた構造設計を行っていたかということ。
(設計者が上記点を理解していたか)
(理解した上で適切な構造設計を行っていたか)
(壁量計算であっても設計者判断で多めの壁量を設けることは可能)

・「国が定める基準=必要最低限の基準」ということ。
(今後も必要に応じて設計者が自分で判断し適切な割増設計を行うことが求められる)

・今後も性能基準は高まっていくということ。
(耐震性だけでなく断熱性や耐久性なども)
(現時点の最高性能は数十年後には並みの性能になる)
(家を売ることを想定するなら現時点の最高性能を目指したい)

など。

最終判断は『提案する設計者』と『選択する建て主様』に委ねられている。

 

 

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................

驚かせる書き方になってしまいすみません(^ ^;)

法改正による変化は建て主様にとってはプラスの変化。
(安全性の高い建築が増えることにつながる)

ただ、重要なのは過渡期(改正前)の「今」。

建て主様が注意するポイントはシンプル。

『許容応力度計算が行われているかどうか』を確認すること。

UA値計算が当たり前になったように今後、許容応力度計算は当たり前になっていきます。

当たり前の設計を当たり前に行う設計者でありたいと思っています。

 

 

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