【秘訣】パッシブ設計『過度な日射熱取得の弊害。』オーバーヒートとシェード手間を解消したい-Y様の声-
こんにちは^ ^
現在、日射遮蔽(夏)と日射取得(冬)のバランスの検討を進めています。
先日「築5年の家を住み替えたい」というご相談を受けました。
お話を聞くと
「南面に窓を多く設けたパッシブ設計の家を建てたが諸々弊害を感じており直射を抑えた新居に住み替えたい。」
というもの。
そういう事態が起こり得ると想像はしていましたがショックでした。
Y様の声を紹介します。
昨今「暖房費低減」や「環境負荷低減」のため『日射熱を暖房として活かす設計(パッシブ設計)』の啓蒙が進んでいます。
エスネルデザインでもパッシブ設計を考えており基本的には「夏の日射を抑え、冬の日射を入れる」ことを意識しています。
(※日射熱の観点より「眺望を活かす」「広がりを得る」ことを重視して窓設計を行っている)
ただし昨今、暖房費を極力抑えるべく「南面の大部分を窓にした設計」も見るようになってきました。
南面に窓を多くとると計算上暖房費は下がります(日射熱が無料の暖房となる)。
ただし
・夏(春-夏-秋)の日射熱負荷増(→遮蔽手間)
・冬の昼のオーバーヒート
・壁量のバランス(安心感、耐震性)
・周囲からの視線調整
等を解決する必要が出てきます。
何事もバランスが大切。
シミュレーションの値だけでなく「暮らし」を想像した設計が必要です。
※「上記課題が解決できている」「建築のプロや知識豊富な方の家(運用手間の想像が出来ており負担を感じていない。暖房費が下がること、環境負荷低減できることにコスト以上の満足を感じている)」等であれば問題なし。
パッシブ設計を重視されている方は真面目な方が多く良いと信じてそれに取り組まれています。
なのでこのような記事は恐縮ではあるのですがずっとある懸念がありました。
それは「提案する設計士の想像と実際に住まわれる建主様の想像に乖離がある」ケースが少なくないであろうということ。
建主様が実際に暮してみて「パッシブ設計のメリットよりもデメリットを多く感じてしまう」場合があるであろうということ。
先日まさにそうしたご相談を受け「そうですよね、」という思いと共にショックを受けました。
今後の家づくりの発展のためという思いを込めて
『パッシブ設計の弊害、適切なバランスとは』ということについて、Y様の声を紹介したいと思います。
(Y様、ご許可頂きありがとうございました)
【Y様メールより(要約)】................
初めまして。〇〇県に住むYと申します。
基本設計をお願いしたくメールさせて頂きました。
〈現在の状況〉
・住み替えにあたり次の家づくりを託せる方を探しています。
〈現在の自宅の概要〉
・約5年前に建築
・断熱性=G2程度、C値=0.2
・パッシブ設計
南面:掃き出し窓多数(ペアガラス)
東西北面:腰窓+小窓(トリプルガラス)
当時、家づくりの勉強を開始後よい土地を見つけたためすぐに今の工務店にお願いすることとなり、ほとんど知識がないまま間取りや仕様を決めてしまったと後悔しています。
〈エスネルデザインのどこに興味を持ったのか〉
コンパクトながらも居場所がたくさんある間取りを提案できる点と、メンテナンスが容易で実効性のある空調をデザインできる点です。
村松:「築5年かつ高気密高断熱の家から住み替えたい」という相談にまず驚きました。
(「後悔している」という言葉に不満足の強さを感じました。)
【Y様メール、面談時の話より(要約)】..........
〈アウターシェードについて〉
・風でよく外れてしまうので次の家では採用したくないです(共働きのため日中は夫婦とも不在)。
・手間なので次の家はなるべく外部遮蔽しなくても良い家にしたいです(今後、ゲリラ豪雨や大型台風が増えることも考慮)。
〈パッシブ設計(南面窓多め)の満足点〉
・施主が手間を惜しまずうまく日射取得を調整すれば省エネで快適に過ごすことができることです。
我が家の2023年年間消費量は4,900kwh程でした(オール電化)。
年間日照時間が長い〇〇県とパッシブ設計のシナジーだと思います。
〈パッシブ設計(南面窓多め)の不満点〉
・パッシブ設計のやり過ぎの弊害を感じていて次の家は南面の窓は今の半分以下にしたいです。
パッシブ設計とは真逆で窓からの日射取得による温度変化を少なくしたいです。
・アウターシェードの上げ下げが想像以上に手間です(夏はほぼ閉めきりだが春や秋などの中間期は気候により上げたり下げたりしている←手間)。
・日射取得し過ぎており冬の日中はオーバーヒートしてしまうので室内のハニカムシェードを上げられない→外の景色が見れないことや室内が暗くなることが不満です。
(ハニカムありでも室温28℃になることもあり窓を開けて外の冷気を入れていた)
(ハニカム下げないと暑いがハニカム下げると日射取得は減る→窓でなく壁で良かった)
・たとえ暖房費が月5000円増えたとしても快適性と手間が減る暮らしが叶うならそちらを選びたいです。
〈窓について〉
・ガラスはペアではなくトリプルが良いです。
・冬、掃き出し窓(引き違い窓)から隙間風を感じることがあります(新築時はなかったが徐々に)。
・冬、ハニカムの両脇の隙間から冷気流を感じることがあります。
・冬、サッシは結露するが翌日日中に乾くを繰り返しています(カビは生えていない)。
・今後夏(夏だけでなく一年中)がより暑くなることを考えるとこの暮らし方に不安を感じてしまう。
・「窓を温度調整の装置にしないこと」が重要だと感じています。
Y様、貴重なお話を大変ありがとうございました。
「日射取得による温度変化を少なくしたい。」
「窓を温度調整の装置にしないことが重要。」
という言葉がとても響きました。
パッシブ設計だけでなくそのほかも参考になる話ばかりでした。
Y様と面談して「新築時に真剣に勉強し最先端の設計を取り入れられたこと」そして「その家に暮してみての感想」がとてもリアルに伝わってきました。
概ね想像していたことが起こっているという印象です。
上記についてはY様の場合なので他のケースでも同様かは明言できませんが当てはまることは少なくないと感じています。
「机上の計算での判断」ではなく「一年間の昼夜の快適性」や「手間の負担」を想像した設計が必要だと再確認しました。
パッシブ設計の流れは今後も拡大していくと想像しています。
大切なのはそのバランス。
そして『設計士による説明→建主様がそれを望むかどうかの確認』。
その暮らしを負担なく(むしろ満足に)感じる方もいれば、そうでない方もいる。
パッシブ設計は設計士の力量と責任が試される。
また今後「情報の発信の仕方」「情報の受け取り方」も問われることになる。
プロによる責任を持った発信は望まれるが、様々な事情でそれが真っ当に行われない場合もある。
特にネガティブな感想(実際に暮してみての不満等)は世に出にくい。
だからこそ「深くまで想像して設計すること」「住まわれている方からの聞き取り」「必要に応じた改善」「誠実な発信」等が求められる。
窓設計は奥が深い。
「日射負荷は分かった上で眺望や抜けを得るために窓を大きく設ける」という判断もあり得る。
(日射負荷は空調により解決可能)
(僕の自邸はそうした判断により西面に大きな窓を設けている)
今後も慎重に検討を進めたいと思っています。
Y様、諸々詳しくお教え頂き大変ありがとうございました。
現在の暮らしの満足点と改善点を踏まえた新しい家づくりが出来れば幸いです。
今後とも何卒宜しくお願い致します。
-「超高断熱の小さな木の家」escnel design-
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今回の記事を読まれた吉岡のエスネルT様から嬉しい言葉を頂いたので紹介します^ ^
興味深く拝読致しました!
パッシブ設計の王道と言えるような住居であっても実際に暮すと、一日の中での温度変化の大きさやその他少しずつ不満が重なってなってきたりするものですね。
あらためて我が家は絶妙なバランスで設計して頂いたと実感しています🙇♂
我が家は不快に感じない範囲内で日射取得の最大化が出来ていると感じています!
冬の日射熱のお陰で室温だけでなく夜まで床が暖かいのがとても心地良いです。
暖房費低減にも効いているので助かっています。
夏や春秋の中間期も窓からの日射は特に問題ありません。
暑くなる時は換気量増-窓明け-冷房で楽に対処しています。
(アウターシェードの必要性は感じていません)
我が家の窓(量、位置、ガラス種)は一年を通してとてもバランスが良いと感じています。
景色や朝日が眺められることも気に入っています^ ^
【暮らし】吉岡T様の暮らしと感想『2階リビングの満足度。』奥様の言葉「不満のない家。」 - 住宅設計エスネルデザイン
今回の記事に近いことを山本亜耕さんが記事にされています。(だん。2024.19号)
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僕の自邸の窓設計についてはこちら^ ^
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【自邸-13】『森を眺める出窓ベンチ。』日射遮蔽-居心地-居場所の検討。-窓設計への思い。包括設計- - 住宅設計エスネルデザイン
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